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韓国経済の21世紀のスタートライン(韓国経済システム研究シリーズNo.5)

Jonghwan Choi
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Jonghwan Choi: Seinangakuin University

No 406, Discussion papers from ERINA - Economic Research Institute for Northeast Asia

Abstract: 韓国経済は1997年末の経済危機から驚異的な復活をなし遂げた。その過程において、金融構造調整、企業部門構造調整、公共部門革新及び労働市場改革の4大改革が進められた。結果的にこれら改革の成果の如何はともかく危機的状況からの脱出には成功したといえる。韓国経済を取り巻く世界経済情勢は80年代や90年代の混乱した状況から脱出しつつある。経済成長の輸出依存度の高い韓国経済にとっておおよそ50%程度の平価切り下げのプラス効果は絶対的なもので、現時点に至るまで危機発生に伴う混乱の余波が続いている中で、現状のプラス成長は決して安定的なものであるとはいえない状況にある。 本稿においては、韓国経済における1990年代以降の主要マクロ指標や主要部門の動きに焦点を当てながら、それらの各経済変量及び各部門における様々な問題点や課題について考察し、今後の経済成長経路のあり方について検討を試みた。 1980年代における高度経済成長期から1990年代の過渡期を経て、経済危機後の最近では内在する多くの課題を抱えつつプラス成長は実現しているが、明らかにその成長率の変動域は下落している。危機発生後、為替レートの大幅な平価切り下げに伴って成長への輸出貢献度が大幅に増大したために、純輸出の値がプラスに転じ、落ち込んだ内需を補助する形で全体の成長を支えるように変わってきている。 まず、消費部門についてみると、所得に占める消費支出の割合がかなり高く、家計の消費構造として量的拡大から質的向上への転換がみられる一方で、決して物質的な豊かさを享受できるような状況にはないと思われる。全体的に所得増大は進んでいるものの、貯蓄率と貯蓄性向が低下している中で家計部門の借入額は増大し、一方で所得格差が広がっている中で消費性向が危機発生以前より異常なほど上昇しており、国民生活全般における疲弊感と将来への不安が広がっていると判断できる。 投資部門においては、製造業部門における投資活動水準が増加傾向にあり、設備投資割合も増大している。これは、IT産業や自動車産業などを中心とする輸出産業部門による積極的な市場拡大予想に基づく対応の結果であり、危機からの回復において重大な役割を担った。具体的に製造業部門の生産能力指数が非常に早いスピードで拡大し、平均稼働率は危機直後の大幅な落ち込みから短時間で立ち直り1999年から危機発生以前のレベルの概ね98%程度にまで回復している。しかし、一方で、成長産業と非成長産業からなる産業部門間成長格差の構図が明白となり、成長産業の成長度合いは大きい半面、その数は少なく、非成長産業の低迷度合いは非常に激しく、その数も多いということが判明した。概して国内経済成長の輸出依存がより明白になっている。 各部門別分析においては、まず労働市場では、出生率の低下と高齢化が進展している一方で、若年労働者の失業率が高く、臨時・日雇い労働者比重が増大しており、危機後の労働市場の混乱は落ち着きを取り戻していない状況にある。労働市場の混乱は、賃金や労働生産性、労働時間短縮問題などのミクロ的な要因による部分もあるだろうが、主としてマクロ経済全体としての構造的な矛盾に基因していると判断される。一方、物価動向からは、実質的なインフレ圧力が徐々に強まりつつあるものの、それによって経済成長が減速するほどではないとみられる。しかし、最近の輸入物価の上昇が継続すれば、インフレ圧力は顕在化すると予想される。金融市場においては、経営方式や財務構造の透明化などの幾つかの課題を残すものの、それぞれの主要変数の動きからは大きな障害となり得るものは見あたらないと判断される。経常収支の黒字転換や外国人投資の増大などを背景に、外貨保有残高と純対外債権も増大している。 以上の国内経済情勢をまとめれば、まず、危機からの回復とその後のプラス成長にとって、第1に、IT関連産業、石油化学関連産業及び自動車関連産業部門による積極的な投資活動や生産能力拡大を通じた輸出拡大努力とその成果、第2に、政策当局者による大幅な為替レート変動に対応した国内物価政策の対応とその成果は、高く評価すべき点である。 次に、残されている政策課題としては、それが、短期的な景気循環によるものか、中長期的な構造問題に起因するものかという問題を峻別すべきであるが、次の3点が早急な対策を必要とする課題であるといえる。第1に、現況の失業問題と労働市場における混乱、第2に、国民生活の安定化、第3に、産業部門間の成長率格差の問題があり、今後の安定した成長に対して大きな不安材料となっている。これらの課題は、それぞれ密接に関連しており、根源的にはマクロ経済全体における構造的な矛盾として、短期的でミクロ的な対策と中長期的でマクロ的な処方箋を同時に必要とするものであるといえる。 本稿における議論を総合すれば、危機発生後現状に至る過程におけるプラス成長は決して安定したトレンドとして捉えられるものではない。為替レートの変動方向と内需拡大の如何によっては、その成長率は大きく変わり得る状況にある。さらに残されている政策課題は、構造的不均衡あるいは量的成長と質的発展の矛盾から生じた過渡期的な病理現象として認識すべきであり、これらは、韓国経済を取り巻く環境変化への近視眼的な妥協とこの背景における中長期的成長戦略の欠落からきていると思われる。 しかし、これらの課題解決に向けた意志決定過程において次のことを忘れてはならないであろう。行動なき議論が先行するか、あるいは無分別的に市場への介入や統制を強行するか、という悪循環を繰り返してきたこれまでの政策姿勢は、結果として国民経済における深刻な構造的矛盾を生じさせ癌化した課題を生み出してきたという事実である。この悪循環との決別こそ韓国経済の最大の課題ではなかろうか。行動なき議論の先行は、日本経済の長期不況からの教訓からではあってはならず、無差別的な市場介入も、過去の韓国経済を振り返れば決して好ましいものではない。現状における韓国経済には、民主主義システムを成熟させていくことと本来の市場経済メカニズム機能を強化することなどを通じて、安定かつ持続的な経済成長のための環境作りに努めていくことが求められているといえる。

Pages: 37 pages
Date: 2004-08
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Citations:

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https://www.unii.ac.jp/erina-unp/archive/wp-content/uploads/2014/09/0406.pdf First version, 2004 (application/pdf)

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